【三題噺】本 残骸 輝くかけら

 

 私は部屋の本棚にあったすべての本を一心不乱に破いていた。

 

 理由は自分ではっきりとわかっている。ただの嫉妬だ。小説家になった同級生の本が賞を取って新聞に載ったことで、輝かしい人生を歩む奴と、ふらふらと職を転々とし、素直に奴の成功を祝福できない自分とを比較してしまったのだ。

 

 奴が自費で出した本はすべて買った。読んで、二人で飲みに行った時に上から目線な感想をネチネチと言ったものだった。奴は私から何を言われても「そうか」と苦笑いをし、勘定の時には決まって「当たればドンと奢ってやるから」といって毎度割り勘で済ませた。

 

 人から何を言われても書き続けた奴と、人から批評されるのが怖くなり書かなくなった自分。奴の努力が報われたことを心から喜べない自分が心底恥ずかしく、悔しかった。自分が一番わかっている自分の気持ちから目を背けるために私は本棚の本を手あたり次第、細かく破った。

 

 紙片が私の手のひらから零れ、ひらひらと舞って床に落ちる。破るのが本ではなく色紙だったらとても綺麗だろうなと人ごとのように考えながら、とうとう全ての本を破り終えた私は、息を乱しながら本の残骸が散乱した部屋を眺めていた。

 

 無意識に紙片に書かれた文字列を目で追っていると、見覚えのある言い回しに気付いた。拾い上げてみると、どうやら私は文芸部に入っていた時に作った文集まで破ってしまっていたようだった。

 

 当時の私はとにかく書くことに貪欲で、食費を削って本を買い、ひたすら思いつく情景を紙に書き留めた。人がどうこう言おうが関係ない、私が書きたい文章を書いていたのだ。当時の苦しさ、楽しさ、奴と文芸について語り合った記憶が私の中を駆け抜けていった。

 

 …もう一度、書いてみよう。誰でもない、自分のために。

 上手く書けたら、人に見せよう。うまく書けなかったら、また次を書こう。

 

 そう思うと同時に、自分の心にかかっていた雲がゆっくりと晴れていくような気がした。

 

 あの時の私は、どれほど小っぱずかしい文章を書いていたっけ?

 

 私は、残骸の山から輝くかけらを拾い始めた。